前回は電子帳簿保存法について、売上5,000万円以下の会社が最低限やるべき対応について解説しましたが、今回はインボイス制度について解説します。
インボイス制度についても、基準期間(2年前)の売上が5,000万円以下であれば簡易課税制度を選ぶことができますし、原則課税の場合でも少額であればインボイスの保存が不要になりますので、意外と簡単に対応できます。
しかし、ルールがコロコロ変わったので、例えばAmazonなどのネットショップで商品を購入した場合や、ETCを利用した場合など、結局どんな書類をどこまで保存しなければならないのか、混乱している人も多いと思います。
国税庁のホームページや手引きで調べても、売上5,000万円を超える場合の説明が中心で、「5,000万円以下ならこの書類は不要です」と注意書きがある程度なのでわかりにくいです。
そこで今回は売上5,000万円以下の場合に限定して、最低限やるべき対応を解説していきます。
目次
1⃣インボイス制度とは?
⑴インボイスとは?
インボイス(適格請求書)とは、売手が買手に対して、受け取る消費税の金額などを正確に伝えるための書類です。
インボイスには、消費税を納めている課税事業者であることを示す登録番号など、6つの記載事項を記載しなければなりません。
インボイスは適格請求書と呼びますが、6つの記載事項が記載されていれば請求書以外の書類(領収書、レシート、納品書など)であっても、インボイスとして使えます。
インボイスの作成方法については下記のブログで解説していますので、今回は説明を割愛します。
⑵インボイス制度とは?
そしてインボイス制度とは、その名のとおりインボイスの取り扱いのルールなどを定めた制度です。
売手は買手に求められたらインボイスを発行する義務があり、インボイスの写しも保存しなければなりません。
買手は受け取ったインボイスを保存しなければならず、これを忘れると、支払った消費税10%分※の仕入税額控除が受けられなくなってしまいます。
※インボイスが発行できない免税事業者から商品・サービスを購入した場合でも、消費税10%分の仕入税額控除が全額受けられなくなるわけではなく、令和5年10月1日から3年間は、消費税8%分(消費税10%分の80%)の仕入税額控除は受けることができます。(軽減税率対象資産の場合は、軽減税率8%分の80%である6.4%の仕入税額控除が受けられます)
したがってインボイス登録した事業者は、売手側の対応として発行したインボイスの写しの保存、買い手側の対応として受け取ったインボイスの保存がそれぞれ必要となります。
2⃣売上5,000万円以下の会社が最低限やるべき対応
⑴売手側の対応(インボイスの写しの保存)
インボイスの写しは、複写やコピーなど、発行したインボイスと全く同じものである必要はなく、インボイスの6つの記載事項が確認できる程度の書類であればOKです。
例えば、複数のインボイスの記載事項が確認できる一覧表や、レジのジャーナルなどを印刷して保存しておくだけでも大丈夫です。
また、市販の請求書発行システムなどを使って、一貫してパソコンでインボイスを作成している場合は、印刷せずにデータで保存しておくこともできます。
しかし、操作説明書や事務処理マニュアルを備え付けておかなければならないなどのハードルがあるので、最低限やるべき対応という意味では、一覧表やコピーの紙保存で十分でしょう。
⑵買手側の対応(インボイスの保存)
①簡易課税・2割特例を選択すればインボイスの保存が不要
次に買手側の対応、インボイスの保存方法について解説していきますが、そもそも簡易課税か2割特例を選択すればインボイスの保存は不要になります。
もともとの消費税の計算方法である原則課税では、売上で受け取った消費税から、仕入や経費の支払時に支払った消費税を差し引いて(これを仕入税額控除といいます)、差額を納税するのですが、インボイスが保存できていないと、せっかく支払った消費税10%分の仕入税額控除が受けられなくなってしまいます。
しかし、基準期間(2年前)の売上が5,000万円以下であれば簡易課税制度を選択できます。
簡易課税制度とは、「売上で受け取った消費税の1割~6割(事業区分による)」を納税する制度で、売上で受け取った消費税のみから納税額を計算するため、購入時にいくら消費税を支払っても、仕入税額控除が受けられるものではないからです。
また、基準期間(2年前)の売上が1,000万円以下であれば、「売上で受け取った消費税の2割(事業区分は関係なし)」を納税する2割特例を選ぶこともできますが、この場合も当然インボイスの保存は不要になります。
②税込1万円未満の少額取引はインボイスの保存が不要
原則課税の場合でも、税込1万円未満の少額取引であればインボイスの保存は不要になります。
これを少額特例といい、基準期間(2年前)の売上高が1億円以下であれば適用できる制度です。
税込1万円未満であればたとえ支払先が免税事業者であっても、10%の仕入税額控除が受けられます。
この少額特例が適用できる期間は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間で、税込1万円未満であるかどうかは、1回の取引金額で判定します。
例えば5,000円の商品と7,000円の商品を、1回の取引で購入すれば1万円以上となるためインボイスの保存が必要ですが、別々の取引として購入・精算すればインボイスの保存は不要になります。
免税事業者から商品を購入するときに、1回で買えばいいものをわざわざ何回かに分けて買う人が出てきそうですよね。
色々と面倒なインボイス制度ですが、税込1万円未満の細々とした買い物のときはインボイスを保存しなくて良いとなると、負担感はかなり減るのではないでしょうか。
③税込1万円以上でもインボイスの保存が不要である6種類の取引
さらに、税込1万円以上であっても、請求書等を発行してもらうことが困難などの理由で、インボイスの保存が不要である取引が次の6種類あります。
☆インボイスの保存が不要である6種類の取引
1.税込3万円未満の公共交通機関の利用(1回の取引金額で判定)
2.入場券等が使用の際に回収される取引
3.税込3万円未満の自販機からの商品の購入
4.郵便切手類(郵便ポストで差し出されたものに限る)
5.従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
6.古物営業、質屋、宅地建物取引業、再生資源卸売業などを営む者の一定の棚卸資産の購入
これらの取引の場合は、帳簿に「取引の内容」を記載するだけでなく、「3万円未満の鉄道料金」「入場券等」など上記の取引に該当する旨も合わせて記載しておけば、インボイスを保存しなくても10%の仕入税額控除が受けられることになっています。
※2.入場券等、3.自販機の取引の場合、帳簿に「住所または所在地」の記載が必要でしたが、令和6年度税制改正で記載不要になりました。
つまり、インボイスの保存が必要な取引は、税込1万円以上の取引のうち、この6種類の取引に該当しない取引です。
なお、インボイスの保存が要らない取引であっても、領収書や請求書などは経費の証拠書類として必要ですので、破棄しないようにご注意ください。
④インボイスの保存方法が特殊な場合
・Amazonなどのネットショップで商品を購入した場合
Amazonなどのネットショップで商品を購入した場合、紙の領収書や納品書がインボイスとして商品と一緒に送られてくるのであれば、その紙のインボイスを保存しておけば問題ありません。
しかし、ネットショップから領収書などのインボイスがダウンロードできるようになるだけの場合は、電子取引に該当しますので、前回の電子帳簿保存法のブログで解説した電子取引データ保存のルールに従って、インボイスを保存する必要があります。
とはいえ基準期間の売上が5,000万円以下の会社であれば、インボイスの電子データを「日付、金額、取引先」のいずれかで検索できる機能などは不要なので、そのままネットショップ上で保存しておくだけでも問題ありません。
ただし、電子データは5年~7年保存しなければならないので、Amazonのように過去7年以上の注文履歴が保存されているようなネットショップでなければ、パソコンのフォルダにダウンロードして保存しておく必要があります。
いずれにせよインボイスを電子データのまま保管しておく場合は、電子データの改ざん防止のための事務処理規程などを整備しておかなければなりません。
事務処理規程の整備が難しい場合は、インボイスを印刷して紙保存することも認められています。しかしその場合でも、インボイスのデータ保存も必須なので、税務職員からインボイスを提出するように求められたときは、紙でもデータでも提出できるように整理しておかなければなりません
詳しくは下記の前回のブログを参照してください。
・ETCを利用した場合
ETCを利用した場合、紙のインボイスが発行されないため、本来であれば利用するたびに利用証明書(簡易インボイス)をETC利用照会サービスから取得する必要があります。
しかし、毎回この作業をするのは大変なので、1回だけ利用証明書をダウンロード(複数の高速道路会社の利用がある場合、高速道路会社ごとに1回)しておけば、あとはクレジットカード明細書を保存しておけば良いと、国税庁のインボイス制度に関するQ&A問103に記載されています。
(なぜETCだけ1回だけの保存で良いのか、法律的な根拠は見つからなかったので、毎回ダウンロードするなんて面倒だという意見に国税庁が柔軟に対応したものだと思われます。)
さらに、①と同じく基準期間の売上が5,000万円以下の会社の場合は、ETC利用照会サービス上に利用証明書の電子データが保存されていれば、事務処理規程を整備することによって、そのままETC利用照会サービス上でデータ保存しておくことも可能です。
いずれにせよETC利用照会サービスにアクセスできるようにしておく必要はあるので、下記URLからETC利用照会サービスの新規登録をしておいてください。
・ETC利用照会サービス
https://www.etc-meisai.jp/
※登録にあたってはETCカード番号、車両番号、車載器管理番号(ETC車載器ごとにメーカーから付番された19桁の識別番号)などの情報が必要です。
そもそもETCの利用料金は税込1万円未満になると思いますし、少額特例により利用証明書(簡易インボイス)を保存できていなくても消費税の仕入税額控除は10%受けられますが、電子帳簿保存法としては保存義務があるので念のため。
・口座引落の場合
家賃の引落のように、取引の都度請求書や領収書が発行されないものについては、「契約書」「インボイスの登録番号の通知」「通帳」などの複数の書類を組み合わせてインボイスの6つの記載事項を満たすケースもあります。
(契約書で取引内容・取引金額・取引先名を確認し、インボイスの登録番号の通知で登録番号を確認、通帳で取引年月日を確認するなど)
税込1万円以上の引落があれば、これらの書類をまとめて保存しておきましょう。
口座引落の他、例えば納品書と請求書を合わせてインボイスの6つの記載事項を満たすケースなど、複数の書類の保存が必要な場合はどの書類を保存すればよいのかわかりにくいですが、インボイスの発行者に問い合わせすればすぐに答えてもらえるはずです。
3⃣まとめ
インボイス制度の対応は、売手側として発行したインボイスの写し(一覧表やコピー)の保存、買手側として受け取ったインボイスの保存が必要です。
簡易課税や2割特例を選択する場合、受け取ったインボイスの保存は不要です。
原則課税の場合でも、税込1万円以上の取引のうち、インボイスの保存が不要である6種類の取引に該当しない取引のときだけインボイスの保存が必要です。
Amazonなどのネットショップで商品を購入した場合やETCを利用した場合など、電子データでしかインボイスが発行されない場合は、事務処理規程を作成してデータのみで保存するか、印刷して紙保存も併用するか、いずれかの対応をしましょう。
また、口座引落の場合など、インボイスとして複数の書類の保存が必要なケースもあるので注意してください。