『経営セーフティ共済』は節税になるか?知らないと損する3つの注意点
質問者
経営セーフティ共済(倒産防止共済)が節税に使えると聞いたのですが、加入した方がよいのでしょうか?
税理士
経営セーフティ共済は単体で使っても節税効果はなく、加入するタイミングを間違えると逆に損することもあるので、『知らないと損する3つの注意点』を確認してから加入を検討してください。

前回のブログで、1番おすすめの節税対策、小規模企業共済について解説しました。

もっと節税したいと言われた時に、2番目に節税対策としておすすめすることが多いのが経営セーフティ共済です。

しかし、経営セーフティ共済は小規模企業共済と違って、それ単体で使っても節税効果はほとんどないどころか、加入するタイミングを間違えると逆に損することもあります。

そこで今日は、経営セーフティ共済を使った節税スキームの全体像と、知らないと損する3つの注意点を解説しますので、これらを確認した上で加入を検討してください。

経営セーフティ共済とは?

経営セーフティ共済(倒産防止共済)とは、取引先が倒産して売掛金などの回収が困難になったときに資金を借入れできる、連鎖倒産を防ぐための制度です。

小規模企業共済と同じく、国の機関である中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)が運営しています。

毎月掛金を5,000円から20万円までの範囲で支払い、掛金総額が800万円に達するまで積み立てることができます。

取引先が倒産した場合には、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(最高8,000万円)までの金額を共済金として借入れできます。

また、掛金は5,000円単位で増額または減額できますので、無理のない範囲で掛け続けることができます。

節税スキームの全体像

掛金が全額経費(法人の場合は損金、個人事業主の場合は必要経費)にできるため、利益が大きく出そうな年度に税金対策として始める方が多いです。

決算月までに1年分最大240万円(月20万円×12ヵ月)を前納すれば、240万円まるまる経費にできるため、かなり納税額を減らすことができます。

240万円経費が増えたら、法人税等(法人税、法人住民税、法人事業税)を30%納めている法人の場合、72万円(240万円×30%)法人税等が安くなります。

また、経費になるということは、個人事業主であれば、所得税・住民税だけでなく、個人事業税や国民健康保険料も下げることができます。
(小規模企業共済は所得控除なので、個人事業税や国民健康保険料は下げることができません)

ただし、逆に解約した年度には、解約手当金は全額収入として計上され納税額が増えるので、節税というより納税を先延ばしにしているに過ぎません。一般的にこれを『課税の繰り延べ』と呼びます。

しかし、経営セーフティ共済は掛金を自由に変えられて、いつでも解約できるという特徴があるため、利益が大きく税率が高い年度に掛金をたくさん支払って、利益が少なく税率が低い年度に解約手当金を受け取ることによって、節税効果を発揮することができます。

知らないと損する3つの注意点

このように、経営セーフティ共済は税率を調整することではじめて節税効果を発揮するもので、こういった調整がうまくいかないと逆に損してしまうこともあります。

したがって、経営セーフティ共済を使う場合は、次の3つの注意点を守るようにしてください。

注意点①所得が年800万円を超える年に掛金を支払わないと損する

法人税は資本金1億円以下の普通法人であれば、所得が年800万円以下の部分には15%、年800万円を超える部分には23.2%かかります。

法人事業税(京都府)も年800万円以下(年400万円超)の部分には5.3%、年800万円を超える部分には7.0%かかります。

これに法人住民税を加えた法人税等の合計税率は、年800万円を境目にして約25%→約35%と一気に10%も上昇します。

よって掛金を積み立てていく年度の所得が年800万円以下であると、掛金の約25%法人税等が安くなりますが、解約手当金を受け取った年度に、年800万円を超える部分に約35%の法人税等がかかってしまうため、結果的には損をしてしまいます。

したがって、所得が低い年度は加入しない、掛金を減額するなどの調整をしてください。

なお、個人事業主の場合は、課税所得が900万円を超えると所得税率が23%→33%と10%上昇しますので、課税所得が900万円を超えているかどうかが一つの基準となります。

注意点②解約時の出口対策を考えておかないと損する

解約手当金最大800万円を受け取る年度の所得がどうしても大きくなってしまうため、退職金の支払いや設備投資によって解約年度の所得を抑えるなど、解約時の出口対策を考えておかないと節税にはなりません。

とはいえ、いつでも解約できるので、退職金をいつ支払うのかわからないような状況でも始めることができますし、もしもの場合の赤字補填として取っておく手もあります。

生命保険でも似たような課税の繰り延べはできますが、税制改正で保険料を損金算入できる割合が下がり、解約返戻金が大きい時期も限られるため、経営セーフティ共済の方がはるかに調整しやすいです。

なお、個人事業主の場合は、法人のように退職金を支払うことはできず、解約手当金の収入計上による税率の上がり幅も大きい(所得税は累進課税なので)ため、使い勝手はかなり悪くなります。

注意点③40か月以上納付しないと損する

経営セーフティ共済を任意解約した場合、掛金納付月数が40ヵ月以上(3年4ヵ月以上)であれば、積み立てた掛金は100%解約手当金として受け取ることができます。

しかし、掛金納付月数が40ヵ月未満であれば解約手当金の支給率は5%ずつ減少していき、24ヵ月(2年)未満で80%、12ヵ月(1年)未満であれば0%となります。

繰り返しになりますが経営セーフティ共済は税率を調整することでわずかな節税効果を発揮できるもので、5%でも支給率が下がってしまうのは大きな痛手です。

そこで、もし資金繰りが厳しくなって解約手当金が欲しいとなったときは、解約ではなく一時貸付金の制度を使いましょう。

一時貸付金について

幸いこの一時貸付金の制度は非常に使い勝手がよく、必要書類さえ提出すれば掛金総額の約70%~95%が借入できます。

金融機関のような審査もないため、書類に不備がなければ10日前後で入金されるそうです。

また、利率も0.9%と低く、返済期間は1年ですが借り換えもできるため、借り換えの手続きと利息の支払を続ければ、ずっと借り続けることもできます。

ちなみに取引先が倒産した場合などは、掛金の最高10倍(最高8,000万円)までの共済金を借入れできますが、共済金は無利子である代わりに、共済金の1/10の掛金が控除されてしまいます。

例えば8,000万円共済金を受け取ったら、800万円(8,000万円×1/10)の掛金がなかったことにされてしまうため、よほどのピンチでなければ共済金を受け取るより、一時貸付金を受け取った方がいいでしょう。

加入資格について

経営セーフティ共済に加入できるのは、継続して1年以上事業を行っている中小企業者です。

中小企業者とは、業種によって資本金の額が5,000万円~3億円以下、常時使用する従業員数が50人~900人以下の会社や個人事業主のことをいいます。

税金を滞納している場合など、加入できない場合もありますので、詳しくは次の加入資格のページをご確認ください。

【中小機構:経営セーフティ共済・加入資格】
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/eligibility/index.html

まとめ

以上のとおり、経営セーフティ共済は税率の差によってわずかな節税効果を発揮するに過ぎず、3つの注意点を守らないと逆に損をしてしまうこともあります。

しかし、それでも節税対策の一つとして経営セーフティ共済をおすすめしているのは、一時貸付金の使い勝手がよく、リスクが低いからです。

手許に余剰資金があったら使ってしまいますが、外部に積み立てておけば無駄遣いはできないですし、いざというときは低い利率で借入することができるため、節税によって資金繰りが圧迫されてしまうようなこともありません。

節税対策というよりは、資金繰り対策として、文字通り経営のセーフティネットとして、経営セーフティ共済はおすすめです。

ぜひ経営セーフティ共済を活用して、より強い財務基盤を築いていってください。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事