103万円の壁→160万円の壁へ!『扶養内パートや学生アルバイトが超えてはいけない年収の壁』令和7年確定版【税理士解説/106万円の壁/130万円の壁】
質問者
所得税の103万円の壁が160万円に引き上げられたそうですが、扶養内パートの妻や学生アルバイトの子が超えたらいけないのは結局どの壁ですか?
税理士
税金の壁が引き上げられたところで、結局は社会保険の130万円の壁(勤務先が51人以上の企業なら106万円の壁)が大きな壁となります。その他の税金の壁は、超えても一気に負担が重くなるわけではありません。壁を超えるとどのぐらい負担が増えるのか、具体的な金額を解説していきますね。

令和7年度税制改正大綱で103万円の壁が『123万円の壁』に引き上げられることになり、前回の記事で“新たな6つの壁”について解説しましたが、その後の税制改正でさらに『160万円の壁』まで引き上げられることになり、扶養内パートは年収160万円以下なら所得税がかからなくなりました。

また、19歳以上23歳未満の大学生の年齢にあたる学生アルバイト(学生でなくてもOK)に適用される特定親族特別控除も創設され、学生の年収が150万円以下なら親の所得税が増えるようなこともなくなりました。

しかし、依然として社会保険の130万円の壁(勤務先が51人以上の企業なら106万円の壁)を超えると、社会保険の扶養から外れて自分で社会保険を負担しなければならず、結局この壁に気を付けないといけないという結論は変わりません。

最近は副業をしている人も多いので、収入の判定はどうやってやるのか?壁を超えるとどのぐらい負担が増えるのか?超えるならどのぐらい超えたら損しないのか?わかりやすく解説していきます。

1.税制改正で変わる『6つの年収の壁』

まずは令和7年度税制改正で6つの年収の壁がどのように変わったのかを整理しています。

今回の税制改正の具体的な内容は、所得税の基礎控除が48万円→最大95万円に、給与所得控除が最低55万円→最低65万円に引き上げられたというものです。

【図表1:基礎控除額の改正】

(出展 国税庁資料 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除 の見直し等について P.2)

【図表2:給与所得控除額の改正】

(出展 国税庁資料 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除 の見直し等について P.2)

基礎控除95万円と給与所得控除65万円を合わせると160万円(改正前は基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円)になるので、年収160万円以下であれば所得税がかからなくなったというわけです。

また、世帯主である夫が受けられる配偶者控除や配偶者特別控除も、妻の年収が160万円以下であれば満額の38万円受けられ、160万円を超えると徐々に減少していきます。

つまり、年収160万円を超えると妻本人に所得税がかかり始め、世帯主の夫の所得税も増えるため、これが『160万円の壁』となります。

一方で、配偶者以外の子や親などの扶養親族がいる場合、年収160万円以下であれば子や親本人に所得税がかからないものの、年収が123万円(改正前は103万円)を超えると、世帯主の夫の扶養控除38万円~63万円が受けられなくなってしまいます。

ただし、19歳以上23歳未満の学生アルバイトに限っては、特定親族特別控除が創設されたため、年収150万円以下なら特定親族特別控除が満額63万円受けられ、年収150万円を超えると徐々に減少していくことになりました。

要するに、扶養親族が19歳以上23歳未満の場合は『150万円の壁』、それ以外の場合は『123万円の壁』を超えると、世帯主の夫の所得税が増えるということです。

加えて、所得税ではなく住民税の方に目を向けると、住民税が非課税となるか否かの100万円の壁についても、給与所得控除が10万円増えて『110万円の壁』に変わりました。

これらの4つの税金の壁は、壁を超えたらいきなり税負担が大きくなるようなものではなく、むしろそうならないような工夫がされています。
(扶養控除の123万円の壁に限っては超えるとそれなりに税負担が増えますが、19歳以上23歳未満の学生アルバイトには無関係の壁です。)

したがって、扶養内パートや学生アルバイトが超えてはいけない壁、超えると一気に負担が大きくなる壁は、前回と変わらず社会保険の『130万円の壁』(勤務先が51人以上の企業なら『106万円の壁』)のみです。

もちろん超えたらダメというわけではありませんが、社会保険の壁を超えると、妻や子自身が社会保険に入って社会保険料を負担しないといけなくなるため、壁を超えてもよいものか慎重に検討する必要があります。

ここからはこれらの新たな6つの壁の詳しい内容と、壁を超えるとどのぐらい負担が増えるのかをそれぞれ解説していきます。

2.住民税の壁(110万円の壁)

⑴110万円の壁とは?

住民税には誰でも同じ金額を支払う『均等割』と、稼ぎに応じて所得の10%を支払う『所得割』の2種類がありますが、均等割すら支払わなくてよくなる『非課税限度額』が自治体によって年収103万円~110万円の間で定められています。

扶養内パートの妻や学生アルバイトの子がこれを超えると、妻や子自身が住民税を支払わなければならなくなるため、『110万円の壁』と呼ばれています。

⑵壁を超えたときに増える負担の金額

『110万円の壁』を超えると支払が必要になる均等割は最低4,000円、一緒に徴収される森林環境税1,000円と合わせると最低5,000円になります。多少上乗せされる自治体もありますが大差はありません。(私が住んでいる京都市は5,600円です)

※森林環境税は国税なので、厳密に言えば住民税均等割と若干非課税限度額が異なります。

所得割は給与所得控除65万円や住民税の基礎控除43万円など(合計108万円)を超える部分に10%かかるだけなので、例えば年収120万円で他に控除がなければ、所得割は(120万円-108万円)×10%=12,000円程度です。生命保険料控除などの他の控除があればさらに金額は下がります。

※所得税の基礎控除は48万円→最大95万円に引き上げられますが、住民税の基礎控除は43万円のままです。

また、細かく言えばそこから調整控除が最大2,500円差し引かれるため、これらを合計すると14,500円(均等割・森林環境税5,000円+所得割12,000円-調整控除2,500円)になります。

※住民税の合計課税所得が200万円以下の場合。

このように、110万円の壁を10万円超えたとしても、増える住民税負担は合計15,000円前後ですし、壁を気にして仕事量を抑えるようなことまでする必要はないでしょう。

※ただし、扶養の妻ではなく、単身世帯や夫の収入がない人で、住民税非課税世帯だけが受けられる国民健康保険料や高額療養費の軽減などの優遇措置を受けている人は、扶養の人数分だけ非課税限度額が上がるとはいえ、非課税限度額を超えると優遇措置が受けられなくなるので要注意です。

3.扶養控除の壁(123万円の壁)

⑴123万円の壁とは?

こちらは冒頭で説明したとおり、扶養親族の年収が123万円を超えると、世帯主の扶養控除が受けられなくなるのが『123万円の壁』です。

また、こちらも説明済みですが、配偶者と19歳以上23歳未満の子が年収123万円を超えても、配偶者特別控除や特定親族特別控除が受けられるため、壁を少し超えたぐらいでは世帯主の税額は増えません。

したがって、123万円の壁を気にしないといけないのは、『19歳以上23歳未満ではない子』や『親』などの扶養親族がいる場合のみです。

⑵壁を超えたときに増える負担の金額

扶養控除の金額は38万円(70歳以上なら別居48万円、同居58万円)なので、例えば所得税を10%納税している世帯主が扶養控除38万円を受けられなくなると、増える所得税は38万円×10%=3万8,000円になります。
※所得税は所得に応じて税率が5%~45%に変動する累進課税

また、住民税(一律10%)の方でも扶養控除33万円が受けられなくなるため、33万円×10%=3万3,000円の住民税負担も増え、合計7万1,000円の負担増になります。

世帯主の所得税率にもよりますが、結構増える負担が大きいので、対象となる扶養親族がいる場合は要注意です。

4.社会保険の壁(106万円の壁・130万円の壁)

それではいよいよ社会保険の壁の解説に移りますが、扶養の妻や子の勤務先が従業員数51人以上か50人以下か?個人事業主(または副業あり)なのか?で事情が大きく異なりますので、それぞれにわけて解説します。

⑴勤務先が51人以上の企業の場合(106万円の壁)

①106万円の壁とは?

2024年10月から、従業員数51人以上の企業では、次の4つの要件を満たした時点で短時間労働者として社会保険の加入対象になってしまいます。

✅所定内賃金が月額8.8万円以上

※実際に支給された給与の額ではなく、雇用契約書等に定められている毎月の基本的な給与や手当のことをいうため、残業代や賞与などは含みません。また、最低賃金の対象とならない通勤手当・家族手当・皆勤手当なども含みません。

✅所定労働時間が週20時間以上

※実際の労働時間ではなく、雇用契約書等に定められている、通常の週に勤務すべき時間のことをいうため、残業時間は含みません。ただし、実労働時間が2ヵ月連続で週20時間以上となり、その状態が続くと見込まれる場合には、3か月目から保険加入となります。

✅2ヵ月を超える雇用の見込みあり

✅学生でない

※したがって学生アルバイトは106万円の壁を気にする必要はない。

月額賃金8.8万円は年収で言えば105.6万円となるため、これが『106万円の壁』と呼ばれています。

扶養の妻子の年収がこの壁を超えると、社会保険上の世帯主である夫の扶養から外れ、妻や子自身が社会保険に加入して保険料を負担しないといけなくなります。

また、上記の4つの要件を満たしていなくても、賞与の金額が大きかったり、副業の収入があったりして130万円の壁を超えてしまうと扶養から外れるケースもります。

なお、106万円の壁は全国の最低賃金が1,016円以上になれば撤廃される予定ですが、これは最低賃金1,016円以上になれば、週20時間以上働くと自動的に月額8.8万円以上になるからです。

週20時間以上などのその他の要件は残るため、『週20時間以上の壁』に変わるだけの話です。

さらに、2027年10月からは従業員数36人以上の企業でも週20時間以上の壁が適用されるようになるなど徐々に適用範囲が拡大されていき、2035年10月には従業員数に関わらずすべての企業に適用されるようになります。
※5人未満の個人事業所などそもそも社会保険の加入対象ではないケースあり

【図表3:短時間労働者の企業規模要件の撤廃】

(出展:厚生労働省HP 社会保険の加入対象の拡大について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html )

②壁を超えたときに増える負担の金額

社会保険料は半分会社が負担してくれるとはいえ、自己負担分だけでも給与の約14%~15%かかります。

年収106万円の場合、単純計算で106万円×15%=159,000円もの社会保険料が給与から天引きされることになります。

税金と違って106万円を超えた部分の15%ではなく、毎月の給与(厳密に言えば社会保険上の標準報酬月額)全額に対して15%かかるので、負担が大きくなります。

壁を超えたら急に159,000円も負担が増えるのであれば、最初から壁を超えないような働き方を希望する人が増えるのも無理はありません。

壁を超える直前の年収105.5万円より、社会保険料や税金を引いたあとの手取りを多くするためには、およそ年収125万円以上稼ぐ必要があるため、その間の年収105.6万円~125万円あたりはかえって手取りが少なくなってしまいます。

【図表4:106万円の壁と手取りの増減】

※あくまでシミュレーション結果ですので、計算条件を変えれば多少結果も変動します。

なお、このような手取りの減少を防ぐために、賃金の15%以上を継続的に追加支給するなどの要件を満たした事業主に対して、労働者1人あたり最大50万円の助成金を支払うキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)が新設されましたが、企業側の負担が重く、どこまで活用されるかは未知数です。

③社会保険に加入するメリット

もちろん社会保険に加入すると、将来もらえる年金が増えるメリットはあります。

しかし、年収120万円で1年間加入したところで、次の表のとおり増える年金は月額500円(年額6,000円)程度なので、かなり長生きできない限り負担増のデメリットの方が大きいです。

【図表5:増える年金額(月額)の目安】

(出展:日本年金機構ガイドブック「パート・アルバイトのみなさまへ 配偶者の扶養の範囲内でお勤めのみなさまへ)

社会保険料の支払い約15%のうち、5%程度は厚生年金ではなく健康保険料なので、支払いの方がリターンより大きくなってしまうのも当然です。

ただし、社会保険に加入すれば傷病手当金や出産手当金がもらえる医療メリットもあるので、支給対象になればそれなりにメリットも大きいです。

⑵勤務先が50人以下の企業の場合(130万円の壁)

①130万円の壁とは?

50人以下の企業に勤務している場合、現時点では106万円の壁はありませんが、扶養の妻子が年収130万円以上になると、世帯主である夫の社会保険上の扶養から外れないといけなくなるのが『130万円の壁』です。

※60歳以上の場合は180万円以上です。また、夫の年収の1/2以上の収入になってしまうと、壁に到達していなくても扶養から外れます。

この場合、妻や子は自分で国民健康保険と国民年金に加入するか、勤務先が社会保険の適用事業所で、週30時間以上(正社員の3/4以上)勤務するなどの加入要件を満たせば、勤務先で社会保険に加入することになります。

なお、社会保険の年収130万円以上の判定は、税金のように1月~12月の収入で判定するのではなく、年間の見込み収入額で判定します。

したがって、年の途中でも昇給して給与月額が108,334円以上になった場合など、その時点から1年間の見込み収入額が130万円以上になれば、加入対象になることもありますのでご注意ください。

ただし、年収130万円を超えても、職場の人手不足などによる一時的な収入増であることを証明する証明書を勤務先の事業主に発行してもらえれば、世帯主の扶養にとどまることができます。

この場合、2年連続までなら130万円を超えても扶養に入り続けることができ、特に上限額も定められていません。

そのため、2年連続でものすごく収入が高かったとしても、3年目が130万円未満であれば、制度上は問題なく扶養にとどまることができます。

②壁を超えたときに増える負担の金額

A.勤務先で社会保険に加入した場合

106万円の壁と似たような説明になりますが、年収130万円の場合、単純計算で130万円×15%=195,000円もの社会保険料が給与から天引きされることになります。

130万円を超えた部分の15%ではなく、毎月の給与(厳密に言えば社会保険上の標準報酬月額)全額に対して約15%かかります。

社会保険料控除が受けられるため、逆に税金の額は20,000円ほど下がりますが、それでも手取りは175,000円も少なくなってしまいます。

壁を超える直前の年収129.9万円より手取りを多くするためには、およそ年収153万円以上稼ぐ必要があるため、その間の年収130万円~153万円あたりはかえって手取りが少なくなってしまいます。

【図表6:130万円の壁と手取りの増減(社保加入)】

※あくまでシミュレーション結果ですので、計算条件を変えれば多少結果も変動します。

もちろん社会保険に加入すると、将来もらえる年金は増えますが、年収120万円~150万円で1年間加入したところで、【図表5:増える年金額(月額)の目安】のとおり増える年金は月額500円~600円(年額6,000円~7,200円)程度です。(傷病手当金や出産手当金がもらえる医療メリットもあります。)

B.自分で国民健康保険と国民年金に加入した場合

国民健康保険は、1世帯あたりにかかる『平等割』、1人あたりにかかる『均等割』、世帯の稼ぎに応じてかかる『所得割』の3種類があり、世帯に40歳~64歳の人がいれば介護保険料分いずれも金額が上がります。

所得割は住民税と似ていて、給与所得控除65万円や基礎控除43万円を合わせた108万円を超える部分に10%~13%程度かかりますが、その他の所得控除(社会保険料控除や生命保険料控除など)は住民税と違って差し引いてもらえません。

年収130万円で、私と同じ京都市在住、介護保険料がかからない40歳未満、世帯の人数は1人で試算したところ、平等割は22,540円、均等割は34,990円、所得割は(130万円-65万円-43万円)×10.47%=23,034円、合計約80,500円となりました。

※令和6年度の国民健康保険料で試算しています。また、世帯全員の所得が低ければ、平等割と均等割が2割~5割減額される可能性もありますが、ここでは考慮していません。

また、国民年金は全員一律で月額16,980円(令和6年度)、年間203,760円なので、上記の国民健康保険と合わせると284,260円となります。

社会保険料控除が受けられるため、逆に税金の額は20,000円ほど下がりますが、それでも手取りは264,260円も少なくなってしまいます。

壁を超える直前の年収129.9万円より手取りを多くするためには、およそ年収162万円以上稼ぐ必要があるため、その間の年収130万円~162万円あたりはかえって手取りが少なくなってしまいます。

【図表7:130万円の壁と手取りの増減(国保・国民年金加入)】

※あくまでシミュレーション結果ですので、計算条件を変えれば多少結果も変動します。

また、こちらは将来もらえる年金が増えるわけでもないので、どうせ130万円の壁を超えるなら、できれば勤務先で社会保険に加入できるぐらい働きたいところです。

⑶個人事業主(または副業あり)の場合(130万円の壁)

①個人事業主も社会保険の壁は130万円

社会保険の130万円の壁は全員共通の壁なので、個人事業主も130万円の壁を超えると世帯主の扶養から外れ、自分で国民健康保険と国民年金に加入することになります。

副業をしている人についても、メインの勤務先の給与収入だけでは106万円の壁や130万円の壁を超えなくても、別の会社の給与収入や、自分で個人事業をしている事業収入などをあわせると130万円の壁を超える場合、やはり扶養から外れて国民健康保険と国民年金に加入することになります。

また、社会保険上の収入には、年金収入のほか、税金がかからない通勤手当や失業給付、傷病手当金や出産手当金なども含まれてしまいますので、これらの収入も合わせて130万円以上(または世帯主の年収の1/2以上)になるかどうかを判定してください。

130万円の壁の内容や、壁を超えるとどのぐらい負担が増えるのかは、「⑵勤務先が50人以下の企業の場合(130万円の壁)」の解説を参照してください。

会社勤務と違う点は、一時的な収入増であっても、事業主の証明をもらって扶養に入り続けるようなことはできないところです。

残念ながら130万円の壁を超えると、すぐに扶養から外れないといけなくなります。

②個人事業主の社会保険上の収入の判定

個人事業主の場合、難しいのは収入が130万円以上かどうかの判定で、収入を『売上高』で判定するのか?経費を差し引いた後の『利益』で判定するのか?青色申告特別控除も差し引いた『事業所得』で判定するのか?といった問題が生じます。

結論から言えば、上記のいずれでもなく、概ね売上高から売上原価を差し引いた『粗利益』の部分で判定されことが多いです。

・売上高-売上原価=粗利益⇐ここ?
・粗利益-売上原価以外の必要経費=利益
・利益-青色申告特別控除=事業所得

なぜこのような曖昧な結論になるのかというと、法律で判定方法が細かく定められていないからです。

昭和61年4月1日に社会保険庁から出された通知に「事業所得などの収入金額から差し引くことができる経費は、社会通念上明らかに所得を得るために必要と認められる経費に限る」と書かれていて、いまだにこれに基づいて収入が判定されています。

・社会保険上の事業収入=売上高-直接必要経費?

算式にするとこのように書かれることが多いですが、ではこの直接必要経費に売上原価以外の必要経費はどこまで含めてよいのか?というのはこの通知には記載がありません。

日本年金機構のQ&Aにも「売上原価は認める、減価償却費は認めない、一律な整理には馴染まない」といったことが書いてあるだけです。

そこで過去に何度か年金事務所などに問い合わせたところ、「仕入れなどの売上原価は認めますが、それ以外の経費は認められません」といった回答をされることがほとんどでした。

法律で定められていない以上、柔軟に売上原価以外の経費も直接必要経費として認めてもらえる可能性もありますが、私の経験上は事務的に粗利益の部分で判定されることが多かったので注意してください。

なお、不動産収入がある場合も、事業収入と同じく、売上高から直接必要経費を差し引いて判定することになります。

5.特定親族特別控除の壁(150万円の壁)

⑴150万円の壁とは?

19歳以上23歳未満の大学生の年齢にあたる子は、学費がかかることもあり、通常は38万円の扶養控除が63万円(学生でなくても63万円)に上がります。

その子がアルバイトをして年収123万円を超えると、扶養控除63万円は0円になってしまいますが、その代わりこの特定親族特別控除が63万円受けられるため、親の税金は高くなりません。

税制改正前はこの制度がなかったので、学生アルバイトが扶養から外れると親の税金が急激に高くなるため、アルバイトを制限せざるを得ませんでした。

とはいえ、子の年収が150万円(合計所得85万円)を超えると特定親族特別控除も次の表のとおり減少していくため、これが150万円の壁となります。

【図表8:特定親族特別控除の金額】

(出展 国税庁資料 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除 の見直し等について P.2)

150万円の壁を超えても一気に親の納税額が増えるわけではなく、そうならないよう控除額が徐々に減少する工夫がされています。

⑵壁を超えたときに増える負担の金額

仮に150万円の壁を10万円超えた年収160万円になった場合、特定親族特別控除は63万円→51万円に12万円下がるため、親の所得税率が10%だとすると、12万円×10%=1万2,000円の負担増になります。

住民税の特定親族特別控除は年収160万円以下なら45万円のまま変わらないので負担は増えません。

このように、壁というより階段のように少しずつ負担が増えていくイメージですし、この壁を極端に警戒する必要はありません。

しかし、増えるのは子本人ではなく親の税負担ですし、学業との兼ね合いもあるため、この壁を超えそうになったら親御さんと事前に相談しましょう。

6.所得税と配偶者特別控除の壁(160万円の壁)

⑴160万円の壁とは?

扶養内パートの妻についても、年収123万円を超えると世帯主である夫の配偶者控除38万円が受けられなくなりますが、その代わりに配偶者特別控除38万円が受けられるので、壁を少し超えたぐらいでは夫の税額は増えません。

しかし、次の表のとおり妻が年収160万円(合計所得95万円)を超えると配偶者特別控除の額も減少していくため、これが160万円の壁となります。

【図表9:配偶者特別控除の金額(所得税)】

(出展:国税庁HP 配偶者特別控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm)

※夫の合計所得が900万円(年収1,095万円~1,110万円)を超えると配偶者控除も配偶者特別控除も金額が減少していき、合計所得が1,000万円(年収1,195万円~1,210万円)を超えると控除は受けられなくなるため、夫(控除を受ける本人)の合計所得も表に記載されています。

こちらも160万円の壁を超えると一気に夫の納税額が増えるわけではなく、そうならないよう控除額が徐々に減少する工夫がされています。

また、冒頭で説明したとおり、年収160万円を超えると妻本人にも所得税がかかり始めるため、壁を超えたときに増える負担の金額は、夫婦それぞれで計算する必要があります。

⑵壁を超えたときに増える負担の金額

①扶養の妻本人にかかる所得税額

所得税は年収が160万円(給与所得控除65万円+基礎控除95万円)を超えた部分に5%かかるだけですので、仮に10万円超えた年収170万円になった場合、かかる所得税は(170万円-160万円)×5%=5,000円程度です。

※所得税率は所得によって5%~45%と大きく変化しますが、およそ年収380万円以下であれば5%の範囲内です。

社会保険料控除や生命保険料控除などの他の所得控除があれば、所得税はさらに小さくなります。

当然年収が増えれば社会保険料や住民税も増えますが、この160万円の壁を超える前から発生していたものなので計算は割愛します。

②世帯主である夫の税金(所得税+住民税)の増加額

①と同様に扶養の妻が年収170万円になった場合、配偶者特別控除は38万円→31万円に7万円下がるため、夫の所得税率が10%だとすると、7万円×10%=7,000円の負担増になります。

また、住民税の配偶者特別控除も33万円→21万円に12万円下がるため、12万円×10%=1万2,000円の負担増になり、合わせて1万9,000円夫の税金が増えることになります。

このように、壁を10万円超えても急激に税負担が増えるわけではありませんし、この壁を極端に警戒する必要はありません。

しかし、割が悪くなることはたしかなので、ワークライフバランスも考えて仕事量を決めましょう。

6.まとめ

今日は新たな6つの壁について解説しましたが、超えると負担が一気に増える壁は、前回と変わらず社会保険の130万円の壁(妻の勤務先が51人以上の企業の場合は106万円の壁)のみです。

その他の4つの税金の壁については、壁を超えても負担は少しずつしか増えないので、あまり気にする必要はないでしょう。

従来の所得税の103万円の壁が123万円の壁→160万円の壁と引き上げられていきましたが、社会保険の壁がなくならない限り根本解決にはいたらず、どんどん複雑でわかりにくくなっている印象です。

できるだけわかりやすく解説したつもりですが、一読しただけで全部理解するのは難しいと思いますので、この記事を保存しておいて、わからなくなったら見返せるようにしておいてくださいね。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事