【ドラッカーに学ぶ】3種類の知識労働と仕事の任せ方
質問者
仕事を人に任せたいのですが、どこまで人に任せてよいものでしょうか?
税理士
ドラッカーによると知識労働は3種類あるので、その種類によって仕事の任せ方を変えましょう。この判断を間違えると大変なことになりますよ。

仕事を人に任せたいと思っても、単純な肉体労働ならともかく、ほとんどの仕事は考えて動かないといけない知識労働でもあるため、人任せにすると仕事の質が落ちてしまうおそれがあります。

かといってすべての仕事を自分でやるわけにもいきませんし…どこまで人に任せてよいものかと悩みますよね。

私の税理士業も知識労働のかたまりですし、毎回この仕事は人に任せてよいものかと自問自答を繰り返してきたのですが…ドラッカーのプロフェッショナルの条件という本を読んでいたときに、偶然その答えを見つけました。

ドラッカーによると、知識労働は3種類あって、その種類によって成果のあがり方が全然違うそうです。

純粋に仕事の質が良ければ成果があがる仕事もあれば、質より量をこなした方が成果があがる仕事、質と量の両方が揃わないと成果が上がらない仕事の3種類があるとのこと。

それならば、人に任せたい仕事がこの3種類のどれに当てはまるかによって、どこまで任せてよいものか、仕事の任せ方を変えなければいけないということに気付きました。

そこで今日は、3種類の知識労働とは何か?仕事の任せ方をどのように変えればいいのか?任せ方を間違えるとどうなってしまうのか?それぞれ解説していきますので、ぜひ人に仕事を任せるときの参考にしてください。

3種類の知識労働と仕事の任せ方

①創造的知識労働

創造的知識労働とは?

創造的知識労働とは、仕事の成果が主に「質」で決まる知識労働のことです。

デザインやアート、新商品開発のような新しいものを作る創造的な仕事は、量より質の方がはるかに重要です。
どうでもいい商品を100個開発するより、大ヒット商品を1つ開発する方が、はるかに成果が上がります。

また、広告やSNSなどのマーケティング関連の仕事もこれにあたります。
私が最近始めたYouTubeも、1動画10万回視聴を超えるものもあれば、数百回視聴で終わるものもあり、その成果に数百倍もの差が出るため、とにかくたくさん作ればいいというものでもありません。

他にも経営者が事業計画を考える仕事なんかも、さまざまな仮説を立てて経営戦略をデザインする必要があるため、立派な創造的知識労働です。

あとは医師の診断や税理士の税務相談などの、一見クライアントと会話しているだけに見えるような仕事も、ヒヤリングにより情報を引き出し、膨大な知識や経験をもとに対策を考える創造的な作業です。

仕事の任せ方

このような特に質が重要な創造的知識労働は、人に任せて少し質が落ちただけでも大きく成果が下がってしまうため、人に丸投げするのはおすすめできません。

再現性が低いため、自分の代わりとなる人を育てるのも難しく、長期的な教育や訓練、本人の自己研鑽などをもってしても、自分の代わりができるかどうかはわかりません。

もちろん専門家のサポートを受けたり、部分的に仕事を任せたりしても全く問題はありませんが、自分も監修するなどして、しっかり関わるようにしましょう。

任せ方を間違えた事例

この判断を間違えてしまった事例としてよく見かけるのは、広告のデザインやメッセージを広告代理店に丸投げして大金をかけたものの、全然反応が取れないようなケースです。

マーケティングで結果を出している会社は、自社の戦略に沿ったデザインやメッセージになるように、積極的な意見交換や確認作業を怠らないものです。

私の業界でよく見かける事例は、雇われ税理士が独立したときに、その税理士が担当していた顧問先も一緒に離れてしまうケースです。

税務相談のような質が重要な仕事を担当税理士に丸投げしていて、所長である税理士がほとんど関与していなかったのであれば、顧問先が担当税理士を頼りにしてしまうのも無理はありません。

このように創造的知識労働を人に丸投げしてしまうと、大損したり仕事を失ったり、大変なことになってしまうおそれがあるため要注意です。

②専門的知識労働

専門的知識労働とは?

専門的知識労働とは、仕事の「質」だけでなく「量」もこなしてはじめて成果があがる知識労働のことです。

例えばデパートの店員のセールスがいかにうまくても、たった1回のセールスでものすごい売上を上げることはできませんし、たくさんのセールスを繰り返す必要があるため、セールスの質と同様に量も重要です。

また、経営者の仕事の中でも、店舗の運営をマネジメントするような仕事については、たまに指示を出しただけできれいにお店が回るようなものではありませんので、継続的に指示を出す必要があります。

そのほか病院の医療技師の検査や看護師業務、設計事務所の製図、税務申告書作成などの仕事についても、似たような作業の繰り返しに見えて、質を保つための高い専門性が求められるため、専門的知識労働に該当します。

仕事の任せ方

これらの専門的知識労働は、人に任せて仕事の量を増やすことで、より大きな成果をあげることができます。

しかし、高い質をキープしなければならないため、最初から専門家や有資格者である人を雇うか、専門家を育てる場合は計画的に教育・訓練・指導していく必要があります。

自社で仕事の質を保ち続けることが難しければ、外部の専門家に外注してもいいでしょう。

任せ方を間違えた事例

事例としてよく見かけるのは、新入社員やアルバイトをいきなり店頭に立たせるようなケースです。

本来セールスは高い専門性が必要なので、初期の教育のみならず、継続的な指導やフィードバックも大切です。

ただ店頭に立たせているだけだと、よほど意欲が高いスタッフでもない限り、大して成長せず売上も上がりません。

そのほか、専門的知識労働を経験の浅い人に任せて、ミスや事故につながったり、結局チェック作業に追われたりするケースも散見されます。

私も学生時代にホテルの配膳のアルバイトを始めたところ、初日にいきなり結婚式で一卓任されて、参列者に迷惑かけまくったことがありますが、この典型例ですね。

③作業的知識労働

作業的知識労働とは?

作業的知識労働とは、仕事の成果が主に「量」で決まる知識労働のことです。

例えば経理事務(請求書の作成や会計入力など)は、ミスをしない程度の質は保つ必要はありますが、一定水準の質さえ保てれば、あとはいかに量をこなせるかが重要になります。

ここでは仕事の質は成果というより、クリアすべき条件にすぎません。
したがって仕事の成果についても、請求書を何枚作成した、会計仕訳を何仕訳入力したなど、仕事の量だけで計測されます。

そのほか、営業事務(書類作成、電話応対など)、労務事務(給与計算、勤怠管理など)、受付、レジ打ち、配送、在庫管理などの仕事もこれにあたります。

仕事の任せ方

仕事に優劣があるわけではありませんが、作業的知識労働は質より量が重要なので、できるだけ手放して人に任せるようにしましょう。

ただし、一定水準の質は確保する必要があるため、軽視はせずにきちんと引継ぎやOJT(実務をしながら指導すること)をしたり、チェックリストを作成したりして、ミスが起こらないように気を付けてください。

その点だけ気を付ければ、経験の浅い新入社員やパート・アルバイトにも任せやすい仕事ですし、事務代行をしてくれる外注先もたくさんあります。

機械化、IT化できる部分があれば、ロボットやAIに任せてしまえば、人件費も削減できます。

任せ方を間違えた事例

私の顧問先は5人以下の小さな会社が多いこともあり、経営者自身が事務作業や電話応対に追われているケースをよく見かけます。

経営者は質が重要な創造的・専門的知識労働に集中してほしいのですが、質より量が重要な作業的知識労働に多くの時間を割いてしまっていて、業績が伸び悩んでしまうことがよくあります。

他によく見かけるのは、引継ぎもなく事務作業を事務員1人に丸投げして、事務員が我流で仕事をしているようなケースです。

事務作業1つ1つはたしかに簡単な作業かもしれませんが、その分作業量は多くなり、仕事の範囲も幅広くなります。
したがって事務作業は、仕事全体で見れば決して簡単な作業ではなく、引継ぎやチェックリスト作成などの工夫もなしに、ミスなくこなせるような仕事ではありません。

「過去の書類を見て同じように処理しといて」なんて適当に任せてしまうと、事務作業に膨大な時間がかかってしまったり、ミスが増えてお客さんに迷惑をかけてしまったり、知らず知らずのうちに会社全体の仕事の質が落ちてしまいます。

まとめ

3種類の知識労働と仕事の任せ方を表にまとめると次のとおりです。

・図表1:3種類の知識労働と仕事の任せ方

創造的知識労働 専門的知識労働 作業的知識労働
仕事の成果 主に「質」で決まる 「質」と「量」の両方で決まる 主に「量」で決まる
仕事の例 デザイン、アート、商品開発、マーケティング、事業計画策定、医師の診断、税理士の税務相談など セールス、店舗マネジメント、医療技師の検査、看護師業務、製図、税務申告書作成など 経理事務、営業事務、労務事務、受付、レジ打ち、配送、在庫管理など
再現性 低い 中程度 高い
教育 難しい 中程度 易しい
仕事の任せ方

・丸投げはしない。

・部分的に任せてもよいが自分も監修する。

・専門家や有資格者に任せる。

・専門家を育てる場合は計画的に教育・訓練・指導する。

・経験が浅い人にも任せやすい。

・引継ぎ、OJT、チェックリスト作成などを行いミスを防ぐ。

なお、3種類の知識労働の分け方については、ドラッカーの考え方をそのまま紹介しましたが、創造的知識労働、専門的知識労働、作業的知識労働という単語自体は、わかりやすくするために私が考えた造語です。

また、仕事の任せ方、任せ方を間違えた事例については、ほぼ私の考え方や経験に基づくもので、科学的な裏付けがあるものでもありません。

しかし、この理論はとてもわかりやすくて役に立ってきたお気に入りの理論なので、改めて記事にまとめました。

あなたが今やっている仕事を、この表を見ながら3種類に分類すれば、どの仕事をどこまで人に任せてよいものか、きっと答えが見えてくるはずです。

ぜひお試しください。

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