私たち経営者は、新しい価値を生み出すことによって、その対価として収益を上げています。
そのため、すでに行っていることをより上手に行うスポーツマンのような精神よりも、まったく新しいことを行う企業家精神を重視しなければなりません。
スポーツと違って、ビジネスのルールや環境はどんどん変化していくため、変化を当然のことと受け入れ、変化を探し、変化に対応し、変化を機会(チャンス)として利用する必要があります。
イノベーションとは、「何か新しいものやサービスを作り出したり、すでにあるものを新しい方法で作り出したりすること」を言いますが、私たち経営者は、常にイノベーションを起こし続けなければならない宿命にあるということです。
それではイノベーションはどうやって起こせばいいのでしょうか?狙って起こせるものなのでしょうか?
この答えは、マネジメントの父とも呼ばれるピーター・F・ドラッカーが、著書「イノベーションと企業家精神」の中で明らかにしてくれています。
これによると、イノベーションを確実に成功させるような理論はまだ構築されていないが、イノベーションの機会をいつ、どこで、いかに探すべきか、成功の確率と失敗のリスクをいかに判断すべきかは十分わかっているとのこと。
そこで今日は、イノベーションの機会の見つけ方、ローリスクで成功確率が高いイノベーションの起こし方について解説していきます。
目次
イノベーションの見つけ方
イノベーションという言葉を提唱したのはオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターですが、今では世界中に浸透している言葉で、日本では「革新」や「技術革新」などと和訳されることが多いです。
「革新」という言葉が持つイメージのせいか、電球の発明のような「新発明」や「画期的なアイデア」などの常識を変える大発見のことをイノベーションだと思っている人も多いようです。
しかし、実はイノベーションの大半が、周りの変化に合わせてちょっとやり方を変えてみたらうまくいったとか、魅せ方を変えてみたらよく売れたとか、何かを少し変えた程度のものです。
例えばかつてコンピューター市場を支配していたIBMは、科学計算用に使われていたコンピューターを、給与計算用に使う企業が現れたので、給与計算などの会計事務用にコンピュータを設計し直すことでその地位を得ました。
ドミノピザが「熱々のピザを30分以内にお届けします。間に合わなければ、代金は頂きません」というUSPで急成長したことは有名ですが、これもピザの配達に返金保証をつけて、魅せ方を変えただけに過ぎません。
したがってイノベーションを見つけるために、長期にわたる研究開発や天才的なひらめきは必ずしも必要ありません。
イノベーションを見つける作業は、「周りに起こっている変化や、これから起こりそうな変化を探して、自分たちがどう変化すればいいかを探る作業」、ざっくり一言でまとめれば「変化を探す作業」であり、必要なのはパズルのピースを探すような地道な努力です。
イノベーションのための7つの機会
そしてこの変化を探す作業をするときに使うのが、イノベーションのための7つの機会です。
ドラッカーがイノベーションを見つけるチャンス、変化が見つかる機会を7つ、信頼性と確実性の大きい順に挙げてくれています。
7つの機会すべてを分析して、変化を探す作業ができたら理想ですが、時間がなければ最も信頼性と確実性が高い「第一の機会:予期せぬ成功と失敗を利用する」を分析するだけでも、イノベーションを起こすことは十分可能です。
なお、この7つの機会は明確に区分されているようなものではなく、互いに重複する部分もあります。
第一の機会:予期せぬ成功と失敗を利用する
今年ももうすぐ終わろうとしていますが、1年の活動を振り返ってみると、予想よりうまくいったこと、逆にうまくいかなかったことがたくさんあると思います。
なぜ予想と異なる結果になったのか?顧客のニーズが変化しているのか?自社の事業をどう変化すればもっとよい結果が出せたのか?
これらを分析することで、イノベーションを起こすヒントがたくさん見つかります。
過去を振り返る作業なのであまり手間はかからず、また、実体験に基づく分析であるため、ローリスクで成功確率が高いイノベーションを起こすことができます。
先ほど紹介したIBMの事例も、IBMが顧客である企業のニーズに合わせてコンピューターを会計事務用に設計し直してみたところ、予期せぬ成功を収めたので、これを利用してコンピューター市場のトップまで上り詰めた事例です。
私自身も今年1年を振り返ってみると、今年試験的に始めたYouTubeの視聴が予想以上に伸びた反面、Yahoo!ニュースなどのメディアに掲載された記事については予想していたほどの反響はなかったので、顧客のニーズが文章より動画に変化しつつあることに気付きまして、動画制作の割合を増やしていこうと思っています。
第二の機会:ギャップを探す
ギャップとは、現実にあるものと、あるべきものの乖離のことを言います。
なぜギャップが生まれてしまっているのか?そのギャップを埋めるために自社はどう変化すればいいのか?
これらを分析するために、顧客の声やスタッフの意見に耳を傾けてみましょう。
先ほど紹介したドミノピザの事例も、顧客は熱々のピザが配達されるものだと思っているのに、現実には冷めたピザが届いてしまうというギャップを埋めるために、ドミノピザは配達に時間制限と返金保証をつけて、イノベーションを起こしました。
第三の機会:ニーズを見つける
顧客のニーズ、解決すべき課題を見つけることができれば、そのニーズを満たすために、課題を解決するために何を変えればいいのか?が見えてきます。
理想と現実に差があるという意味では上記のギャップと似ていますが、理想はあくまで理想でまだ存在していない、ゴールが曖昧な点がギャップと違います。
白熱電球を発明したのはエジソンではなく、イギリスのスワンという人だそうですが、スワンの白熱電球はフィラメントがすぐに蒸発してなくなってしまうため、寿命が短すぎて実用的ではありませんでした。
そこでエジソンは、電球の寿命が短いという課題を解決するために、6,000種類にも及ぶいろんなフィラメントの材料を試して実用電球を開発し、世界的に有名なイノベーションを巻き起こしました。
第四の機会:産業構造の変化を知る
ある産業の急速な成長や技術の発達などにより、産業や市場の構造が変化したときにも、イノベーションのチャンスが訪れます。
産業構造の変化に伴い、人々の働き方が変わり、流通が変わり、市場のニーズが変わります。
近年は特に、コロナ禍によるZoomの発達や在宅ワークの普及、ChatGPTを始めとする生成AIの登場などにより、どの産業も構造が大きく変化しているように感じます。
これらの変化に対応するために、自社はどう変化していけばよいでしょうか?
第五の機会:人口構造の変化に着目する
人口構造の変化は統計を見れば簡単に予測できるにも関わらず、これに対応しようとしない企業もたくさんあります。
日本は明らかに人口が減少して少子高齢化していくのに、右肩上がりの成長を前提に活動している企業も少なくありません。
年齢別の人口の変化だけでなく、職業別・所得層別の人口の変化、これらに伴う時代や空気の変化などを予測し、いち早く対応していきましょう。
第六の機会:認識の変化をとらえる
コップに「半分入っている」と「半分空である」は量的には同じですが、人々の認識が「半分入っている」から「半分空である」に変わるとき、イノベーションの機会が生まれます。
アメリカでは1960年代の初めから20年間、アメリカ人の健康度に関する指標はどんどん改善されていったのにも関わらず、健康不安がささやかれ、健康雑誌が生まれ、健康食品が売れ、屋内運動器具メーカーが急成長したそうです。
日本は世界的に見ればまだまだ豊かな国ですが、国民生活に関する世論調査(令和4年10月調査)を見ると、約65%が現在の収入に不満を感じており、まさに「半分空である」という認識を持っているようです。
認識の変化を科学的に補足することは難しく、また一時的な変化なのか永続的なものなのかの見極めも難しいですが、だからこそ上手く対応できればイノベーションを起こすきっかけとなるでしょう。
第七の機会:新しい知識を活用する
新発明や画期的なアイデアなどの新しい知識を活用することについては、7つ目の機会、最も信頼性と確実性が低い機会として挙げられています。
ドラッカーはその理由について、「発明発見という新しい知識によるイノベーションは、いわば企業家精神のスーパースターであり、たちまち有名になり金にもなる。しかし、実を結ぶまでのリードタイムが長く、失敗の確率も高いため、スーパースターらしくマネジメントが難しい。」といった説明をしています。
第一~第六までの機会と比べても突出してハイリスクハイリターンなので、私たち小さな会社の経営者がこの第七の機会にこだわるのは避けた方が無難でしょう。
まとめ
ドラッカーが提唱するイノベーションのための7つの機会のうち、特に「第一の機会:予期せぬ成功と失敗を利用する」に目を向けてもらえれば、イノベーションを起こすチャンスはきっと見つかるはずです。
年末年始に1年を振り返る時間があれば、ぜひ予期せぬ成功と失敗は何があったか?を意識しながら振り返ってください。
末筆になりましたが、今年も私のブログやYouTubeを見てくださってありがとうございました!
来年も色んなイノベーションが起こせるようにお互い頑張りましょう!よいお年を!