どのぐらい稼いだら法人化すれば良い?

質問者
どのぐらい稼いだら、法人化すればよいのでしょうか?
税理士
状況によりますが、税金・社会保険料の面だけで考えれば、
利益が800万円を超えたあたりから法人化するメリットが大きくなります。

この質問、個人事業主の方に何度聞かれたか
わかりませんが、いつも曖昧な回答しか
できませんでした。

というのも、シミュレーションしようにも
計算過程が複雑だからです。

そこで今回は、その複雑な計算を繰り返し、
かなり精度の高い回答を出すことができ
ました。

シミュレーション結果をわかりやすく解説
していきますので、ぜひ最後までご覧ください。

個人事業主の所得にかかる税金・社会保険料

個人事業主の所得(利益)に
かかる所得税は、税率が5%~45%と、
所得が上がるほど税率も上がる累進課税です。

これに住民税10%、事業税3%~5%を合わせる
と、合計税率は15%~60%と幅があります。

しかし、それぞれ所得(利益)の計算方法が
違うので、単純に所得に合計税率をかけただけ
で、税金の合計額がわかるわけではありません。

さらに国民健康保険料10%もかかりますが、
これもまた所得の計算方法が異なります。
(国民年金は毎月定額で、近年は16,500円前後です)

法人の所得にかかる税金・社会保険料

法人の所得にかかる税金についても、
法人税・法人住民税・法人事業税の3種類
(合わせて25%~35%程度)がありますが、
これらも計算過程が複雑です。

また、法人が社長に役員報酬を支払う場合は、
それに社会保険料約30%がかかり、労使折半
なので会社も約15%の社会保険料を負担しない
といけません。

実際、どれぐらい違うのか?

何となく、利益(売上ー経費)が増えれば
個人の所得税等の税率が上がっていくので、
税率があまり変わらない法人の法人税等の方が
安くなるのはわかりますが、実際どれぐらい違う
のでしょうか?


この疑問に答えるために、
利益や税率などの条件を入力すれば、
税金や社会保険料の合計額が一発で算出できる
かなりマニアックなExcelを作成して、
本気でシミュレーションしてみました。

同じ利益に対して、
個人事業主の場合にかかる税金+社会保険料と、
法人の場合にかかる税金の額をそれぞれ計算し、
その差額を以下の表にまとめています。

※ 利益が800万円以下の法人の場合、
役員報酬を支給すると税金+社会保険料が
増えてしまうので、法人は税金のみを集計
しました。

税金・社会保険料の合計額シミュレーション

①利益(売上ー経費) ②個人事業主の所得税等※1+社会保険料※2 ③法人の法人税等※3 ④差額(②-③)
1,000,000 264,420 293,800 -29,380
2,000,000 456,620 517,800 -61,180
3,000,000 722,320 741,600 -19,280
4,000,000 1,047,320 965,600 81,720
5,000,000 1,402,520 1,214,100 188,420
6,000,000 1,825,820 1,462,700 363,120
7,000,000 2,270,020 1,711,200 558,820
8,000,000 2,714,220 1,959,800 754,420

※1…所得税・住民税・事業税の合計額。以下の条件で計算。

  • 所得税…青色申告特別控除有り。所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみ。社会保険料控除は※2と同額で計算。
  • 住民税…税率10%、所得は所得税と同額で計算。均等割は無視。
  • 事業税…税率5%で計算。

※2…国民健康保険料+国民年金保険料の合計額。

  • 国民健康保険料…京都府の料率で概算。40歳以上、1世帯、世帯人数1人で計算。軽減措置は無視。
  • 国民年金保険料…16,610円×12ヵ月=199,320円で計上。免除措置は無視。

※3…法人税・法人住民税・法人事業税の合計額。京都府の税率で概算。役員報酬なしで計算しており、社会保険料もなし。

シミュレーション結果のまとめ

シミュレーション結果だけ数字で見ても
わかりにくいと思いますので、以下、
簡単に言葉でまとめました。

利益が400万円以下の場合

→個人でも法人でも、税金・社会保険料の
合計額はあまり変わらない。法人化しても
税負担は軽減されない。

利益が500万円~700万円の場合

→法人の方が税金・社会保険料は安くなるが、
差額は20万円~50万円程度と小さい。
法人運営の維持費や手間、将来的に利益を
社長に分配(役員報酬or配当)するときに
また税金がかかることを考えると、わざわざ
法人化するメリットは小さい。

利益が800万円の場合

→法人の方が税金・社会保険料が約75万円
安くなる。法人運営の維持費等を考えても、
法人化するメリットが大きくなってくる。


ちなみに、利益が900万円を超えてくると、
法人では社長に役員報酬を支払った方が、
税金・社会保険料の合計額が小さくなります。

シミュレーションが複雑になるので表には記載
しませんでしたが、税負担を抑えつつ、
社長に利益を分配できるので、法人化する
メリットはさらに大きくなります。

節税以外の法人化のメリット

いかがでしたでしょうか?

節税のために法人化を検討されている
個人事業主の方にとっては、とても
参考になる内容だったと思います。

しかし、法人化するメリットは、何も節税
できることだけではありません。

他にもメリットはたくさんありますので、
これらのメリットが大きければ、利益が小さい
内から法人化しても全く問題ありません。


最後に、法人化するメリット・デメリットを
以下にまとめます。

税額だけにとらわれず、これらも参考にして、
総合的に判断するようにしてください。

法人化するメリット・デメリットまとめ

☆法人化するメリット

  • 所得が増えても税率はあまり増えない。
  • 社会的信用が増すので、取引しやすくなった
    り、融資を受けやすくなったりする。
  • 法人の方が優秀な人材が集まりやすい。
  • 法人の資産と個人の財布をきちんと区別して
    管理できるので、管理しやすい。
  • 複数人で起業する場合、いったん法人に利益
    を集めてから分配できるので、
    きれいに分配できる。
  • 将来的に法人化したいと思っているのであれ
    ば、早めに法人化した方が、法人としての
    実績を積むことができて信用が増す。
  • 個人事業主と比べると経費として認められる
    範囲が広くなるので、節税しやすい。
  • 社長が亡くなっても、法人の資産は相続税の
    対象にならないので、相続対策がしやすい。
    (社長保有の法人の株は相続税の対象)
  • もし会社が倒産しても、社長個人は出資した
    株の価値がなくなるだけで、個人資産を失う
    わけではない。
    (借入の保証人になっている場合などは別)
  • 青色欠損金(赤字)の繰越ができる年数
    が10年と長い。(個人事業主は3年)

★法人化するデメリット

  • 法人運営の維持費や手間がかかる。
    【維持費の例】
    ・法人設立費用…20~30万円
    ・登記費用(住所変更等)…毎回数万円
    ・税務顧問料…個人より年間20~30万円高い
    ・給与計算料…月額1万円前後
  • 社会保険に強制加入しなければならない。
  • 交際費の上限(年間800万円)がある。

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