


どちらかあいまいな場合は、“5つの判定基準”をあてはめて総合的に判断しなければなりません。
テレワークが普及し、仕事を外注しやすくなったこともあり、最近特にこの質問が増えました。
「外注扱いにして、請求書作ってお金払っとけば問題ないよね?」
と思っちゃいますよね、わかります。
給与となると勤怠管理や社会保険の加入など色々と負担かかりますし、外注費にした方がお互い楽ですもんね。
特に小さな会社や個人事業主さんの場合、相手が知人や元同僚だったりすると、なんとなくのノリで契約が始まってしまうことも多いです。
でも実はこれ、税務調査でもよく見られてる「あるあるネタ」なんです。
というのも、
「これは外注費で落とせません」
「給与として源泉徴収が必要です」
そんな指摘が入ると、過去の源泉徴収漏れをまとめて追徴されることも…。
では、どうやって判断すればいいのか?
結論から言えば、
「契約書に何て書いてあるか」ではなく、
「実態がどうなっているか」で判断されます。
そしてその判断のために使われるのが、国税庁が公表している「5つの判定基準※」です。
※参照:大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/091217/01.htm
今日はこの5つを具体例を交えながら、超わかりやすく解説していきますね。
1.給与と外注費を区別する5つの判定基準
⑴指揮命令関係がないか
業務の進め方や仕事の手順を、あなた(発注者)が細かく指示している場合は、給与(=雇用契約)とみなされる可能性が高いです。
逆に、「この日までに仕上げてくれればOK」と、成果物さえ納品されればいいという契約なら、外注費(=請負契約)と判断されやすいです。
⑵勤務場所や勤務時間の拘束がないか
「毎週月曜はうちのオフィスに来て、9時~17時で働いてね」と言っている場合。
これは“雇っている状態”とほとんど同じですよね。
一方、「どこで・いつ作業してもいいよ」というスタイルなら、外注として扱える可能性が高まります。
⑶代替性があるか(他の人にやらせていいか)
一般的な外注契約では、依頼した仕事をその人自身がやろうが、従業員や下請けなど他の人に頼んでやってもらおうが、成果物さえ納品されれば問題はないはずです。
でも、「○○さん本人にお願いしてるので、代わりの人じゃダメなんです」と言う場合は、雇用的な側面が強くなります。
サラリーマンが自分の仕事を勝手に他の人にやらせたら絶対ダメですよね。笑
⑷成果に応じた報酬の請求があるか
外注費は通常“仕事1件あたり〇〇円”といった形で、成果に応じて報酬を請求します。
成果物を納品できなければ、不可抗力によるものであろうが、どれだけ長時間作業しようが、報酬は1円ももらえません。
一方で給与は、仮に成果物を失っても、「時給○○円」「月額〇〇万円固定」など、勤務時間に応じて給料が支給されます。
時間単価や日当で計算する外注契約もありますが、タイムカードで時間管理したり、残業代を割増したり、給与に似た形で支払っていると、実態が給与と判断されるリスクが高まります。
⑸機材や材料の費用負担があるか
例えば、 会社がパソコンや工具、材料まで全部支給していて、相手が“手ぶら”で来ている場合。これも「会社に雇われている」関係に近いので、給与と判断されるリスクがあります。
逆に、相手が自分の機材を持ってきて作業しているなら、外注として独立性があると見なされます。
…と、ここまで見てきたように、「給与」か「外注費」かはこの5つの要素を総合的に見て判断されます。
ここまでの内容を表にまとめると次のとおりです↓
給与か外注費か?「5つの判定基準」早見表
判定基準 |
〇=該当 |
×=非該当 |
1. 指揮命令関係がないか |
外注費 |
給与 |
2. 勤務場所・勤務時間の拘束がないか |
外注費 |
給与 |
3. 代替性があるか |
外注費 |
給与 |
4. 成果に応じた報酬の請求があるか |
外注費 |
給与 |
5. 機材・材料の費用負担があるか |
外注費 |
給与 |
このうちいくつ給与に当てはまったら給与と認定されるのか?
単純に個数だけで判断できるものではありません。
それに裁判ではこの5つの判定基準とはまた別の要素が重視される場合もあります。
大事なのは、契約書の文言ではなく、“実際にどういう働き方をしているか”です。
そんなこと言われても具体例を見ないと判断しかねると思いますので、次は過去の裁判でどのような判断が下されてきたのかを見ていきましょう。
2.過去の裁判例に学ぶ判断の分かれ目
⑴一人親方の事例(外注化した作業員)
東京地裁:令和3年2月26日判決
この事例では、建設業(塗装工事業)の作業員2名から「手取りが減る(給与だと社会保険料が天引きされる)ので外注扱いにしてほしい」と求めがあり、会社は2名を従業員から外注(業務委託)扱いに変更しました。(その後、2名とも再び従業員に復帰)
会社は外注扱いとしていた期間の2名への支払いを外注費として、消費税の仕入税額控除を受けていましたが、税務調査で「それらは給与なので課税仕入れに当たらない」と仕入税額控除が否認されました。
会社は処分取消の訴訟を起こしましたが、東京地方裁判所でも2名は給与に該当すると判断されました。
2名は会社や元請けの具体的な指示を受けて業務を行っていたことから指揮命令関係があり、会社の指示で残業を行っていたことから勤務時間の拘束もありました。
また、報酬も従業員だった時期と同様の日数単価で計算されており、2名が休むときは会社が代わりの者を手配していたことから代替性もありませんでした。
さらに、機材等の費用負担についても、作業員はコテやヘラなど道具箱に入る程度のものしか用意しておらず、高価な工具は会社側が用意していました。
形式上は請負契約としていても、実態が変わらなければ給与とみなされる典型例といえるでしょう。
判定基準 |
判断 |
1. 指揮命令関係がないか |
×(現場監督指示) |
2. 勤務場所・勤務時間の拘束がないか |
×(残業も指示) |
3. 代替性があるか |
×(代理不可) |
4. 成果に応じた報酬の請求があるか |
×(日給制) |
5. 機材・材料の費用負担があるか |
×(主要工具会社支給) |
⑵トラック運転手の事例
札幌高裁:令和2年11月12日判決
次はもう少し判断が難しい事例を紹介します。
北海道で運送業を営む会社が、自社のトラック運転手の一部を「償却制社員」と呼び、一般の従業員とは異なる待遇で働かせていました
償却制社員の運転手には出来高(運送荷物の取扱量)に応じて報酬を支給し、給与ではない前提で源泉所得税を天引きせず処理していたところ、税務調査でそれが否認されました。
会社は処分取消を求めて提訴しましたが、札幌高等裁判所でも給与と認定されています。
償却制社員たちは、自分名義で購入したトラックなどを減価償却する間、専属で会社の運送業務に従事する契約でした。
上述のとおり報酬は出来高払いで、他の運転手に自分の担当業務を委託することも社内規程上はできた(他者への委託が常態化していたわけではないが)ため、ある程度の独立性はありました。
しかし、雇用社員と同じく毎日の配送先・時間等について会社の細かな指示を受けていたため指揮命令関係があり、勤務時間や運行ルートなどの時間的・空間的拘束を受けていました。
また、彼らは貨物自動車運送事業の許可を得ておらず、独立した事業者として運送事業を行える立場にもなかったことなどから、独立事業ではなく給与であると判断されました。
このように、「5つの判定基準」早見表では外注費の〇が3つも付くのに、総合的に判断して給与と見なされてしまうこともあるわけです。
判定基準 |
判断 |
1. 指揮命令関係がないか |
×(運行指示に従う) |
2. 勤務場所・勤務時間の拘束がないか |
×(点呼・日報等) |
3. 代替性があるか |
〇(規則上可) |
4. 成果に応じた報酬の請求があるか |
〇(出来高制) |
5. 機材・材料の費用負担があるか |
〇(自己所有) |
⑶ホステスの事例
国税不服審判所:平成26年7月1日裁決
最後に判断が分かれた事例として、ホステス報酬の大半が給与認定されましたが、一部は外注費として認められた珍しい事例を紹介します。
スナック経営者はホステスと業務委託契約の形をとり、支払った報酬を外注費と処理していましたが、税務調査で給与であると指摘され、国税不服審判所に不服申し立てを行いました。
しかし、審判所も大半のホステスについて「給与」に該当すると判断しました。
この事例では、店側が給与体系・勤務時間・店内規則を定め、面接時に説明の上でホステスを採用していました。
また、ホステスは店側の指揮命令下で接客業務に従事しており、店長の指示で指名客以外の接客も行っていたことから、指揮命令関係がありました。
さらに、店側が出勤日や勤務時間をタイムカードで管理し、遅刻・欠勤時の連絡義務やペナルティもあったことから、時間的・空間的拘束を受けていました。
加えて、報酬形態も日給または時間給を基本とし、同伴料や指名料が加味されるに過ぎず、ドレス代は店側が負担し、送迎代も一部店側が負担していました。
一方で、審判所は自由裁量の強いホステスAのみ例外的に外注費と認定しました。
なぜなら、ホステスAは出勤時間の取り決めがなく(出勤日は決まっていた)、自身の顧客の売上げの50%を報酬として同伴料等を加算する独自の歩合制であり、接客に際し自ら費用負担もしていたと推認されたからです。
このように同じ店のホステスでも、働き方次第で判断が分かれるということです。
判定基準 |
大半のホステス |
ホステスA |
1. 指揮命令関係がないか |
×(店内ルールあり) |
〇(拘束弱い) |
2. 勤務場所・勤務時間の拘束がないか |
×(タイムカード管理) |
〇(自由出勤的) |
3. 代替性があるか |
×(代理不可) |
×(代理不可) |
4. 成果に応じた報酬の請求があるか |
×(時給+手当) |
〇(売上歩合50%) |
5. 機材・材料の費用負担があるか |
×(ドレス貸与他) |
△(一部費用負担) |
3.外注費を給与と認定された場合の追徴税額
税務調査で外注費を給与と認定された場合、給与から差し引くべきだった“源泉所得税の追徴”と、“消費税の仕入税額控除の否認”のダブルパンチを食らうことになります。
⑴源泉所得税の追徴
「給与なのに源泉徴収していなかった」となると、本来は源泉徴収すべきであった未納の所得税だけでなく、不納付加算税(通常10%)や延滞税といったペナルティも課されます。
未納の所得税については、報酬を支払っていた相手から徴収すればよい話ですが、すでに取引がなくなっていると回収できずに会社が肩代わりするケースも少なくありません。
また、過去3年~5年(故意の脱税とみなされた場合は最大7年)分までさかのぼって納税する必要があるので、金額も多額になりやすいです。
⑵消費税の仕入税額控除の否認
外注費を支払う場合は、消費税10%を支払ったものとして、消費税の仕入税額控除が受けられ、消費税の納税額を減額してもらえます。(相手が免税事業者なら現状は8割控除なので、10%→8%控除に下がります)
しかし、外注費が給与だと認定された場合、給与は消費税の不課税取引であるため、消費税10%は支払っていなかったものとして、消費税の仕入税額控除が否認され、消費税の納税額が増えます。
こちらも過去3年~5年(故意の脱税とみなされた場合は最大7年)分の外注費の約10%の消費税額となるとかなりの金額になりますし、過少申告加算税(税務調査通知後なら10%~15%)や延滞税といったペナルティも課されますのでリスクは大きいです。
「まぁいっか」で済ませず、 しっかり判断しておくのがおすすめです。
4.給与認定されるリスクを減らす5つの方法
では、どうすればリスクを減らせるのか?
最低限やっておきたいのは、以下の5点です。
⑴ 請負契約書をちゃんと作る
雇用契約か請負契約かは契約書の文言ではなく実態で判断されるとは言ったものの、請負契約書がないと税務署に「実態は雇用では?」と見られてしまいます。
それに請負契約書のような確固たる証拠がないと、税務調査や裁判で反論する上でも圧倒的に不利な立場になります。
また、外注先に雇用契約ではなく請負契約であり、事業所得(または雑所得)として確定申告が必要であることを明確に認識してもらうためにも、やはり契約書は欠かせません。
ここを曖昧にして認識がズレていると、やはり税務調査で反論できなくなります。
請負契約書(または業務委託契約書)に業務内容、納期、報酬条件、代替性の有無などを明記しておきましょう。
⑵ 仕事の進め方は相手に任せる
作業手順や方法まで細かく指示すると、指揮命令関係があると判断されてしまいます。
成果物に対する責任は外注先に任せ、進行方法には口を出しすぎないよう注意が必要です。
ある程度管理が必要な場合でも、勤務時間や作業過程ではなく、成果物の品質や納期を管理するようにしましょう。
⑶ 請求書は相手に作成してもらう
請求書をこちらで作成してしまうと、こちらで給与計算をして給与明細を渡しているのと同じように見えてしまいますよね。
また、請求書すら作成できない相手が独立して事業を行っているとも言い難いです。
納品後に外注先の名前で請求書を発行してもらうことで、独立性が示せます。
⑷ 報酬は時間ではなく成果に対して支払う
報酬を月額や時給で支払っていると給与と見なされがちです。
「動画1本◯万円」「記事1本◯万円」など、仕事の成果に応じて報酬を設定しましょう。
私たち税理士業界でも、毎月固定で顧問料を請求したり、作業時間で請求したりするケースもありますし、月額固定報酬や時間単価計算が絶対ダメというわけではありません。
しかし、そのようは方法を採る場合でも、欠勤控除や残業代などの労務対価的な報酬形態は避けましょう。
⑸ 機材はできるだけ相手に用意してもらう
作業に必要なパソコンや工具を会社が提供していると、従業員と同じように見なされやすいです。
外注先に用意してもらうか、貸与は最小限にとどめるのがベターです。
とくに、相手が“元社員”や“知人”の場合、関係性があるので契約書もなく色んな仕事をあれこれ指示したり、機材はこちらで用意してあげて、何なら請求書までこっちで作ってあげたり、実態が雇用に近くなってしまうケースもよく見かけます。
一度、契約の内容と働き方を見直してみて、少なくともあなた自身は外注費だと自信を持って言えるような状態に変えていきましょう。
5.まとめ
【「給与」か「外注費」かで迷ったら…】
- 契約書より“実態”で判断される
- 5つの判定基準(指揮命令/勤務時間/代替性/成果報酬/機材負担)で総合判断する
- 給与と認定されたら追徴課税もあるので注意!
曖昧な契約のまま放置していると、あとから多額の追徴につながるリスクがあります。
知人とのやりとりこそ、しっかり線引きをしておくことが大切です。